フレイル・サルコペニア

フレイルとは、「加齢とともに心身が老い衰えた状態」のことです。“加齢にともない”と聞くとフレイル=加齢と思われるかもしれません。
しかし、フレイルを進めるリスク因子をしっかり管理することによりフレイルになることを予防することや、フレイルになったとしても早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があります(可逆的)。すなわち、フレイルは加齢とともに起こる現象ではあるものの、予防と治療が可能な状態を指します。
フレイルは、生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症も引き起こして健康寿命を短縮するだけでなく、生命予後にも影響する危険があります。
一般的に、要介護になる前にフレイルの状態を経ることになりますが、多くの高齢者で要介護になってから生活支援などをうけると思います。
要介護の患者様の生活を支えることが重要であることは言うまでもありませんが、最も大切なのは要介護にならない、すなわちフレイルから健常な状態へ改善することだと考えられます。
高齢者が増えている現代社会において、フレイルを予防し、フレイルに早く気付いて正しく介入(治療や予防)することが重要です。

フレイルには身体的、精神心理的、社会的な要因があり、包括的なアプローチが必要です。
フレイルと判断する基準は?
フレイルの基準には様々なものが報告されていますが、Fried先生が提唱したものが使われることが多いです。
以下に示すFriedの基準には5項目あり、3項目以上該当でフレイル、1または2項目だけの場合にはプレフレイル(前段階)と判断します。
項目 詳細
1.体重減少 意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
2.主観的な活力低下 何をするのも面倒、何かを始めることができない、と週3-4日以上感じる
3.握力低下 標準より20%以上の低下
4.歩行速度低下 標準より20%以上の低下
5.活動度低下 1週間の活動量が男性353kcal未満、女性270kcal未満

フレイルは、体重減少や筋力低下などの身体的な変化を含みますが、気力の低下などの精神的な変化や社会的なものも含まれます。
これらの項目に当てはまる方は、生理的な老化とは区別して、適切な介入を行うべき対象として認識する必要があります。
フレイルのリスク因子って?
フレイルになる原因にはさまざまなものがあります。
後で述べるサルコペニアを中心に、骨粗鬆症、変形性関節症、栄養障害、神経内分泌異常などの病気が複合的に関与するとされています。
また、糖尿病に関連する高血糖やインスリン抵抗性、慢性炎症、筋肉量低下、炎症性サイトカイン(炎症を引き起こすホルモン)などが関連すると報告されています。
加齢に伴う変化や生活習慣病などの慢性疾患によって筋肉量・筋力の低下が起こると、基礎代謝量(1日のエネルギー消費量)が減少し、食欲低下に繋がります。食事量が低下して低栄養状態となると、さらに筋肉量が減少し、易疲労感や活力が低下することにより社会的な側面も障害され、日常生活に支障をきたすようになります(フレイルサイクル)。
このフレイルサイクルと呼ばれる悪循環を断ち切らなければ、容易に要介護や寝たきりの状態に陥ってしまうことになります。
サルコペニアってなに?
サルコペニアとは、高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下をきたした状態のことです。
筋力の低下については握力で評価し、身体機能については歩行速度の測定で行います。
筋力や身体能力の低下がある場合には筋肉量の測定をして診断することになります。
また、必ずしも筋肉量の減少を伴わずに筋力低下をきたすことがあり、このような状態をダイナペニアと呼ぶ考えもあります。


当院の目指すフレイル、サルコペニアに対する診療
わが国では平均寿命が延びています。
一方、健康寿命は男性で約9年、女性で約13年平均寿命よりも短いといわれています。
言い換えると、男性では亡くなる前の9年間、女性では13年間要介護の状態(誰かの手を借りて生活する)ということになります。
私どもの理念である“いつまでも活き活きと、笑顔があふれる社会を作るために、あなたの健康寿命延伸を目指す”ために、フレイル、サルコペニアの予防と治療は必須です。
特に当院の診療の軸である糖尿病と骨粗しょう症はともにフレイル、サルコペニアの原因・誘因となる病気です。
生活習慣病の治療のみに捕らわれてしまうと、逆にフレイルやサルコペニアに悪影響を及ぼすことがあります。
したがって、生活習慣病とフレイル、サルコペニアの両方の専門的視点を持ち個々に合わせた診療(テーラーメイドメディスン)が必要です。
院長はこれまでにサルコペニア、骨粗しょう症、糖尿病の診療と研究を通じて、フレイル、サルコペニアの患者様を診療してきました。
フレイル、サルコペニアの診療には、運動器(筋肉や骨)と内科的な診療を同時に、長期的に行っていくことが重要です。当院では、患者様とご家族がいつまでも活き活きと、笑顔でいられるようにサポートさせていただきたいと考えています。