内分泌疾患

内分泌という言葉にあまりなじみがないという方が多いかもしれません。
内分泌の病気はホルモンの病気です。ホルモンには様々なものがあり、全身のいろいろな内分泌臓器で作られ全身の調子を整えています。
代表的な内分泌臓器には甲状腺、副腎、視床下部(脳の一部)があります。ホルモンは多すぎても少なすぎても体調不良に繋がります。
また、内分泌臓器に腫瘍がみつかることも多く、きちんとした検査と診断が必要になります。
甲状腺の病気
甲状腺は首の前側(喉ぼとけの近く)にある臓器です。
甲状腺からは甲状腺ホルモンが作られ、甲状腺ホルモンが過剰になる場合(甲状腺中毒症)と足りなくなる場合(甲状腺機能低下症)があります。
甲状腺中毒症の原因として代表的なものがバセドウ病(甲状腺機能亢進症)です。
免疫の異常により甲状腺が自律的にホルモンを作ることにより甲状腺ホルモンが過剰となり、動悸や手の震え、体重減少、多汗、易疲労感などのさまざまな症状を呈します。
その他にも亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎、プランマー病といった病気もあり、それぞれ治療方法が異なるためきちんと診断することが最も重要です。甲状腺中毒症は放置すると命にかかわる状態(甲状腺クリーゼ)になることがあり、早期の治療が必要です。
甲状腺機能低下症の原因として代表的なものが橋本病です。
橋本病も免疫の異常により甲状腺の働きが悪くなりホルモンを作ることができなくなります。易疲労感、体重増加、脱毛、むくみ、便秘などの症状を呈しますが、特徴的な症状はないため疑われなければしばしば診断が遅れることがあります。男性よりも女性に多い病気であり、若い人にも発症し、時に不妊症の原因になったりすることもあります。
また、ホルモンのバランス異常がなくても甲状腺の中に腫瘍ができたり、全体的に甲状腺がはれたり(単純性甲状腺腫)することがあります。甲状腺がんである可能性もあり、エコーなどで適切に検査あるいは経過観察をする必要があります。
副甲状腺の病気
甲状腺の近くに副甲状腺という米粒大の臓器があります。
副甲状腺は主にカルシウムバランスに大事なホルモンであり、副甲状腺ホルモンが過剰になると高カルシウム血症、逆に不足すると低カルシウム血症を呈します。副甲状腺ホルモンが過剰になる病気に原発性副甲状腺機能亢進症があり、高カルシウム血症、骨粗しょう症、尿路結石の原因になります。
高カルシウム血症はのどの渇き、吐き気、食欲低下、いらいら感、易疲労感などの多彩な症状を呈します。
副甲状腺機能亢進症の診断には採血、採尿に加えてエコーや放射線検査が必要となり、専門医による総合的な判断が求められることが多い病気です。
一方、副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症では、手足や口回りのしびれ・けいれん(テタニー症状)や易疲労感、歯の発育障害がおこることがあります。
偽性副甲状腺機能低下症という病気もあり、専門医による診断が必要になることが多い病気です。
副腎の病気
腎臓の近くに副腎という臓器があります。
近年、CTやエコーをすると偶然、副腎に腫瘍が見つかるケースも増えてきており、副腎偶発腫瘍(副腎インシデンタローマ)とよばれています。
副腎からは様々なホルモンが分泌されており、代表的なものにアルドステロン、カテコラミン(アドレナリンなど)、副腎皮質ホルモンがあります。
最近は多くの病院でCT検査や腹部エコー検査が行われているため、偶然に副腎の腫瘍や腫大が見つかるケースが多くなっています。内分泌臓器全般に当てはまりますが、腫瘍の多くは良性ですが、稀に悪性腫瘍(癌)であることもあるため注意深い観察と経験が必要です。  

原発性アルドステロン症は副腎からアルドステロンが過剰に産生されることにより、高血圧やミネラルバランスの異常(低カリウム血症)が引き起こされます。
原発性アルドステロン症は珍しい病気ではなく高血圧症の約10%~30%に潜むといわれています。
若年性高血圧症、高血圧の初診時、低カリウム血症、複数の降圧薬を内服しても血圧コントロール不良、副腎腫瘍などの場合に積極的に検査することが推奨されます。放置すると心血管疾患の発症リスクとなるため治療が必要です。
治療方法は症例によって異なり、手術による副腎腫瘍摘出術をする場合もありますが薬物療法を選択する場合もあり、内分泌の専門的な診療が必要になります。  

褐色細胞腫はカテコラミンを過剰に産生することにより高血圧症を引き起こします。典型的な症状として、頭痛、動悸、発汗過多、体重減少、吐き気、高血糖などの神経興奮症状がありますが、いずれもこの病気に典型的ではなく診断に苦労されるケースもあります。
褐色細胞腫の10%が悪性であり、家族性に発症したり両側性のこともあります。副腎以外の臓器に褐色細胞腫が発生することもあり基本的に専門的な診療が必須の病気です。
良性の場合には手術的摘出で治癒しますが長期的な経過観察が必要です。
悪性の場合には手術や抗がん剤による化学療法を組み合わせて治療を行いますが、効果は個人差が大きいとされています。  

クッシング症候群は副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を過剰産生することにより、全身にさまざまな症状を引き起こします。
コルチゾールはいわゆるストレスホルモンと呼ばれており、ストレスから体を防御する働きがあります。
しかし、コルチゾールが過剰に産生されると、糖尿病や骨粗しょう症、肥満(中心性肥満)、胃十二指腸潰瘍、ニキビ、多毛、赤ら顔、易感染性、抑うつ症状など多彩な合併症を引き起こします。
クッシング症候群は基本的には手術にて治療を行いますが、難治例ではコルチゾールの産生を阻害する薬物治療を行うこともあります。  

副腎皮質機能低下症はクッシング症候群とは逆にコルチゾールの産生が低下する病気です。
易疲労感、全身倦怠感、脱力症状、筋力低下、食欲不振、吐き気、低血圧、低血糖などさまざまな非特異的な症状を呈し、この疾患を疑わなければ見逃されるケースもしばしばあります。
診断が遅れれば命にかかわるような重篤な状態に陥ることもあり、速やかな副腎皮質ホルモンの補充により治療を行います。
発熱などのストレスにさらされた際には副腎不全を起こして重篤な状態になることがあり、ストレス時には通常の2~3倍の副腎皮質ホルモンの補充を行います。
一般的に、副腎機能の回復は望めないため、生涯にわたり副腎皮質ホルモンの補充療法を行いますが、適切に管理されれば予後は比較的良好な病気です。  
副腎腫瘍のなかで最も多いのが非機能性副腎腺腫です。
上記のホルモンバランスの異常はない良性の腫瘍であり、良好な経過をたどります。
稀に腫瘍の増大、ホルモン異常が顕在化することもあるため経過観察が必要となります。
下垂体の病気
下垂体はホルモンの中枢にあたる臓器であり、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、成長ホルモン(GH)、性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、プロラクチン(乳腺刺激ホルモン)、抗利尿ホルモン(ADH)など多彩なホルモンを分泌します。  
下垂体に腫瘍が発生することがあり、多くは腺腫と呼ばれる良性腫瘍です。
その他にも頭蓋咽頭腫、ラトケ嚢胞、髄膜腫といった種々の腫瘍が発生することがあり、CTやMRIにて検査を行う必要があります。
大きなものでは頭痛や視野障害の原因になり、眼科でみつかることもあります。  

下垂体腺腫の多くは非機能性とされていますがホルモンを過剰産生するものがあり、専門医による診断が必要になります。
過剰産生されるホルモンにより多彩な症状を呈します。ホルモン産生性の下垂体腺腫の多くは手術療法を行いますが、薬物治療により治療することもあり専門的な診療が必要になります。
一方、下垂体からホルモンが産生されない下垂体機能低下症(中枢性副腎皮質機能低下症、成長ホルモン分泌不全症、中枢性性腺機能低下症、尿崩症など)では、足りないホルモンを補充する治療が必要になります。  

先端巨大症は成長ホルモンの過剰分泌により、手足や顔の一部が肥大する病気です。
唇が厚くなり、額が突き出る、下あごがせり出るなど顔つきの変化を指摘されることがあります。
また、先端巨大症では糖尿病、高血圧症、脂質異常症、骨粗しょう症、大腸がん、心肥大などを発症するため、放置すると生命予後が悪くなることが知られています。  

クッシング病は副腎皮質刺激ホルモンの過剰分泌により、クッシング症候群と同様の症状を呈します。  

プロラクチノーマはプロラクチンの過剰産生により、乳汁分泌や月経異常、性腺機能低下、不妊症を呈する病気です。女性に多いとされていますが、原因はよくわかっていません。
腫瘍が大きい場合には手術療法を行うことがありますが、多くは薬物療法で治療を行います。
当院の目指す内分泌疾患の診療
内分泌疾患は前述のように多彩であり、特異的な症状がないこと病気が多いため適切な検査を行わなければ診断が遅れることがしばしばあります。
例えば、日ごろの疲れがとれない、食事に気を付けているけど体重が減らない、最近むくむようになったといったよくある症状の原因が甲状腺機能低下症(橋本病)だったということがあります。
当院では内分泌専門医の視点で検査をし、原因検索を行うことにより患者様の症状軽減に努めていきたいと考えています。
また、内分泌疾患は入院などにより詳しい検査が必要なケースが多く、島根大学医学部附属病院などの高度医療機関との連携により質の高い診療を行うことが可能です。
当院では、適切な内分泌診療を通じて患者様の症状・苦痛に寄り添うことにより、活き活きとした生涯をサポートしていきたいと考えています。